銀の風

一章・新たなる危機の幕開け
―12話・森に護られし竜神の里―



結局面倒くさかった一行は、途中までトロイアの町行きの定期飛空艇で移動し、
そこから城下町の貸しチョコボで一気に目的地に向かうコースを選んだ。
バロンの町から出る際、無理やりフィアスがくっついてきたり、
定期飛空艇が思ったよりも高かったりと色々アクシデントはあったが。
ともかく、何とかトロイアの町まで着き、一行は貸しチョコボを借りることが出来た。
トロイアの森の中でも、最奧といわれるあたりを目指す途中、
リトラは仲間にルーン族のことをたずねられ、話をしていた。
「俺達ルーン族って言うのはな、元々は地上全体を支配してたらしーんだ。
召喚魔法と憑依魔法っていう……ま、その血を引いてないと使えない魔法の使い手だけどよ。
あの手の魔法力を大量消費する魔法を扱うだけあってよ、魔法は得意なんだけどな。」
今、町で店に行くと時折見かけるルーンの腕輪は、彼らがもたらしたものだ。
ルーン文字という、特殊な文字を使って武器などに魔法の力を込める魔法技術を持っている。
その技術の一部は人間たちにも知られているようで、
表面に彫った文字に魔力を込めたアイテムが売られていることもあるという。
「へー……そりゃすごいね。でもさ、じゃあ何で今はちょっとしか居ないわけ?」
チョコボに揺られながら、アルテマは興味津々といった様子で聞く。
フィアスの方はというと、チョコボにつかまるのが精一杯という様子で、あまり聞いていない。
「ん〜……なんせ、元々おとなしくて争い嫌いの奴が多いからな〜。
人間とあちこちで争いになって、滅ぼされたり追いやられたりしたらしいぜ。
ま、人間と結婚して混血なんかも多いらしーけどよ。ミストのところとかいい例だな。
あの……おれのとこの連中に言わせると、親戚結婚やりすぎのところ。」
混血になり、血が薄まると力は落ちる。
ミストの民は、それに早くから気が付いていた。
そこで、最初は外から仲間を迎え入れて限りなく純血に近づける努力をしていたのだ。
だが次第に周囲から仲間が消えると、血族結婚に転じるようになる。
結局、ミスト一族はその知識が災いして結果的に寿命を人間以下までに縮めてしまったのだ。
「ミストって言うと……あの短命な?ねえ、ルーン族って皆ああなわけ?」
アルテマの問いに、リトラは首を横に振った。
「ちげーよ。本とは、300年くらい平気で生きるんだ。
人間よか、よっぽど長生きするぜ。その分、育つのも遅いけどよ。
俺、見た目は人間で言う7,8才だけど本とは21。大体3倍くらいだったかな?」
フィアスやアルテマが驚いて目を見張った。
だが、ルーン族よりも長い寿命を持つ種族は多い。序の口といったところか。
「うっそ〜!あ、あたしより11も上じゃん!!」
耳元で騒がれ、アルテマを乗せたチョコボが迷惑そうに一声鳴いた。
「すごいね〜ルーン族って。ぼくのおかーさんのしゅぞくはね、
人間のはんぶんくらいしかないっていってたよ〜。」
フィアスの体に流れる血の半分は、カーシーの血だ。
カーシーはまん丸い体に小さな手足に耳と尻尾がかわいい種で、
直径、もとい体長が30cm程までにしかならない。球状の体のせいで、それほど小さい印象は受けないが。
成体になっても精神が幼く、感情の起伏は激しく人懐っこい。また、非常に大喰らいでもあるとか。
原種は他の世界より来た種族とされ、古の魔法を使えるという説もある。
実は人間にとって、ルーン族などと共に非常に謎が多い種族なのだ。
「フィアスちゃんの母さんは、カーシーなんやて?
確かカーシーが居る森は、豊かな証拠やいうけどなあ。」
リュフタも物知りである。幻獣だけあって、伊達に長命ではないらしい。
「へ〜、そうなんだ。はじめてしった〜!」
チョコボでの移動にやっと慣れてきたのか、
フィアスは横に居るリュフタに笑顔を見せた。
「ねえ、まだその村見えてこないね。」
うっそうと茂る木々を邪魔くさそうに見やり、辺りを見回して建物の影を捜す。
だが、村はおろか一軒の家も見当たらない。
見えるのは、進むに連れて密度を増して光と視界をさえぎる木々ばかり。
「まーな……あそこの連中人間と付き合いねーから、
探す方の都合なんかこれっぽっちも考えちゃいねーよ。ぜってー!」
リトラはいらいらしてきたのか、つり目がさらにつりあがっている。
チョコボが、心なしかおびえている。
「リトラはん、チョコボがおびえとるで。」
そうつっこんでみても、まったく聞いていない。
大声でがなりたてているだけだ。
「ね〜……ほんとにいつそこにつくの?」
彼も不安そうだ。迷ったのではないか、という懸念が表情に表れている。
リュフタは首を横に振った。
「それは大丈夫やで。リトラはんは、ああ見えて迷うことはあんまりないんやから。」
リトラが迷いにくいのは事実だが、絶対ではない。
だが例え気休めでも、言っておけば少しは安心させられる。
落ち着かないのは色々な意味でよくない。
「そうなの?うん、じゃあしんじる!」

そうしてまたしばらく駆けて行ったところで、
チョコボたちが疲れてきたため一行は泉で休憩を取った。
疲れた体に、のどを通る冷たい水が心地いい。
リュフタやチョコボは、水浴びもしていた。
「ふ〜、生き返ったぁ〜!」
ぱしゃぱしゃと水音を立て、顔を洗い終えたアルテマは満足そうな声を上げた。
それから、水を手ですくって飲む。
水筒に入っている革くさい水とは、比べ物にならないおいしさだ。
実はアルテマは、これを目当てにのどの渇きを我慢していた。
と、いうのも彼らが持っている水筒は革製なので、どうしても臭いが移る。
革の臭いが移った水は、やはり嫌らしい。
「わーい、お魚お魚〜!」
ほんの少し離れたところでは、小魚をフィアスが楽しそうに追いかけている。
それを見て、リュフタも一緒になって追い回し始めた。
「まーちょっと見ててや!うちのキャッチテクをみせたるで〜!」
言うが早いか、意気揚々と水に飛び込んだ。チョコボたちが、音に驚いて飛び跳ねる。
派手なしぶきが飛び散り、近くに居たフィアスはびしょぬれだ。
プルプルと頭を振って水気を払っている。それでも払いきれず、布を探しはじめた。
「何やってんだよ〜。」
呆れながらも、布を持ってフィアスの頭を拭いてやる。
「わぁ。」
乱暴な手つきだが、フィアスは我慢してリトラにされるがままにしていた。
拭き終わると髪はすっかりぼさぼさで、まるで雑草のようだった。
「おわり。ったく、世話やかせんなよな。」
自分で焼いたというのに、妙な言い草である。
結構世話焼きなのかもしれない。とろくて見てられないだけかもしれないが。
「ありがと〜リトラ。」
何の疑問にも思わないわけではないだろうが、
その辺りの躾がいいフィアスはきちんと礼を言った。
もっとも、リトラは何の反応もよこさなかったが。
「あんた、たまにはまともじゃん。ねー、兄弟いるの?」
アルテマが興味ありげな顔をして聞いてきた。
フィアスの扱いを見て、気になったのだろうか。
「んーと、人間換算で3つ離れた弟がいるぜ。
ちょろちょろくっついてきて、すっげーうっとおしかったけどよ。」
兄という事もあり、おそらくしょっちゅう面倒を見させられていたのだろう。
年長というだけで、理不尽な目にあったことも多いはずだ。
「えー、弟?!いいなー、あたしも弟欲しい〜!
あたし一人っ子だからさ、兄弟欲しいんだよね〜。」
一人っ子の常か、兄弟が居ると聞いた途端うらやましそうな顔になる。
そして、それとは正反対にリトラの顔に嫌そうな表情が浮かぶ。
「何言ってんだよ、うっとおしいだけだぜ兄弟なんてよ〜。
俺はお前のほうがうらやましいぜ!」
お互い、お決まりといっていい反応だ。
リュフタとフィアスは、それを遠巻きにしてみている。
と、いきなり人がやってきた。
「坊やたち、そこで何してるんだ?」
突然声をかけてきた。
『わ!!』
目をまん丸にして飛びのき、そちらに顔を向ける。
黄色がかっていない淡い緑の髪。すらりとした長身の若者で、純血のルーン族らしかった。
「な、なあ兄ちゃん。この近くにヌターユって村ねーか?」
まだ驚いたような感じの声になったままだが、とりあえず、頭は働いたようだ。
ここにルーン族が居るということは、目的地は近いかもしれない。
「ああ、私の居る村だよ。見たところ坊やは同族みたいだね。」
密かに全員ガッツポーズをした。これで、今晩野宿にならずにすむ。
と、言うのが真の理由かもしれない。
「おう。なー、わりーけど村まで案内してくれねーか?
俺たち、用があるからさ。」
すると、若者は快く承諾してくれた。
チョコボたちも連れ、若者の案内で村に行くことにした。

―ヌターユ―
村までは、歩いて10分程だった。
若者の話によると、先程休んでいた池は村の水汲み場の一つだという。
澄んだ水を保つため、妙な物が水に紛れ込んでいないかチェックしていると話していた。
若者とは、着いてから宿を教えてもらってすぐに別れた。
「さてと、こんな所じゃ客はすくねーだろうから宿は後でもよさげとして……。
なー、おめーらどうする?」
くるりと振り返り、後ろに居たほかのメンバーに話を振った。
少し考えるそぶりを見せると、リュフタが最初に口を開く。
「せやなー、折角きたんやし、あそこの神殿でも行ってみたらええんやない?
丁度、人が仰山いるで。」
リュフタが指した方向を見ると、多くの人が村の奥にある神殿に向かっていた。
が、そこから帰る人の姿はない。何か、特別な行事でもあるのだろうか。
「ねーねー、いくの?」
行きたくなったのか、フィアスが催促するようにアルテマの上着のすそを引っ張っている。
「ねーどうせ来たんだし、行かない?」
リトラはうなづいて同意した。
全員意見が揃ったので、人々が向かっている神殿へと彼らは歩みを進める。
別段急ぐ必要も無いため、のんびり景色を眺めながらだ。
周りはすべて豊かなトロイアの森。村にしては大規模だが、そこかしこに落ち着いた雰囲気が漂っている。
住むとしたら、絶好の環境かもしれない。
「結構いいところやな〜。」
リュフタが、楽しそうに宙で飛びはねている。
跳ねるように駆けている所を見ると、人間で言うスキップをしているらしい。
「リュフタはこういうところ好きなの?」
小首をかしげてリュフタに問いかけた。
すると、彼女はその場で止まってフィアスの方に顔を向けた。
「せやで。うちはお祭り好きやから、本とはにぎやかな町が好きやけど。
でも、うちら幻獣には、こういう自然が多いところのほうが体にええんや。」
幻獣も、色々あるらしい。環境が良くなければ、住めない幻獣もいるのだろう。
そういえば、人界ではあまり幻獣は見かけない。
「そっか〜。」
リュフタも大変なんだね。などと呟きながらきょろきょろ辺りを眺めている。
あちらこちら見ながら歩いている間に、一行は神殿に着いた。
―竜の神殿―
神殿の中に、多くの人々が入っていく。
入り口に立っている門番達が簡単に顔や身なりを見るだけで、
それほどチェックは厳しく無いようだ。
「なー兄さん、俺たち冒険者だけどさ、この中入ってもいいか?」
いきなり入ろうとして呼び止められたら面倒くさいので、
先に確認をとるほうが得である。退屈なのか、あくびしている門番をつつく。
「ん〜・・?ああ、キミは召喚士か。そっちは連れかい?」
ぼうっとしていたのか、少々慌てたそぶりを見せる。
「そうだよ。後、今ここで何してるんだ?」
知らないのを笑われるかとも思ったが、場合によっては引き上げることも有りうるので聞いてみる。
「知らないのかい?今日は、竜の巫女様が竜神様の信託を受け取られる日だ。
この村で、もっとも大事な行事さ。行くなら、通っていいぞ。」
退屈そうだが、とりあえず聞くだけ聞いていくことにした。
飽きたら途中でこっそり出て行けばいいと、気楽に考えたようだ。
それにしても、これほど簡単に通してくれるとは。ルーン族は、よほど仲間に寛容らしい。
入り口から奥の部屋に伸びる石造りの廊下を、他の人々に混じって歩く。
「変わった明かりだね。火が浮いてるみたい。」
上に向かって口を開けた竜を模した燭台が、壁に等間隔で並んでいる。
丁度、火が竜の口から出ているように見えているが、どういう仕掛けなのだろうか。
「魔法アイテムじゃねーの?ルーン族は、機械仕掛けの物をあんまり使わねーし。」
リトラは故郷でこの手の物を多く見ているのか、さして興味を示さなかった。
隣のリュフタは、細工を見てその細かさに感心している様子を見せている。
手先が器用な職人でも、この村に居るのだろう。
「おもしろいね〜。」
浮いている火が揺れるたびに、楽しそうな声を立てる。
「そんなにおもしろい?」
少し眉をひそめて、アルテマがフィアスに問う。
「うん!」
幸せというか、得な性格かもしれない。
まあ、幼児は笑っていればそれだけでいいだろう。
「おい、こっから先は静かにしねーとどやされるぞ。」
開け放された大きな扉の向こうには、すでにたくさんの人々が並んで座っていた。
人々が座っているその奥には、祭壇と思しき物が見える。
とりあえず、リトラ達はいつでも外に出られるように一番扉に近い隅っこに座った。
竜の巫女の信託とやらは、一体どんな内容なのか。少し気になるところである。



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1ヶ月以上経った気が……。まあ、コメントは控えます。
次回は、また仲間が増える予定で。それにしても、村にしては広いですなここι
環境がいい所は、現代だと少ないですよねえ。